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Case study 01-新商品開発支援「HI-OCENERGY(ハイオクエナジー)」

2015年、秋。高知県の特産品であるショウガとノンアルコールビールに、エナジードリンクを加えた「ハイオクエナジー」という飲料が発売されました。ビール味のエナジードリンクです。ショウガ、麦汁、BCAA、アルギニンが配合されています。運動後の乾いた喉を潤し、失ったエネルギーを素早く回復することができます。価格は1本500円。ハイオクエナジーのプロデュースは、高知県でコンビニ経営をされている方で、本ラベルデザインの依頼主でもあります。
Produce : Yasuhiro Kiyotoh
Art Direction, Design : 株式会社トライアンド
Copywriting : 株式会社トライアンド
Cording : 株式会社トライアンド
Photograph : モビール株式会社

最終成果物に至る道のり

最終成果物のラベルデザインは主に「肉食恐竜のグラフィック」と「商品ロゴ」が組み合わさったものです。しかし、この最終成果物のデザインに至るまでには、様々なラベルデザインの試作品を制作しました。さらに、その試作品の前工程では、ムードボードの制作、市場のデザイン採取や採取したデザインの分布も実施しました。今回のラベルデザインの制作工程は以下のとおりです。

市場のデザインを採取

依頼主からラベルデザインの制作業務を受託後、市場に流通しているエナジードリンク、栄養ドリンクのラベルやパッケージを採取しました。それらを集め、比較することによって、エナジードリンクらしさの因子が明確になると考えたからです。ここでのエナジードリンクらしさとは、生活者が商品のラベルやパッケージから伝達され、エナジードリンクの商品なのだと判断することを可能とするラベルやパッケージに印字されている伝達物質です。生活者は伝達物質を目から視覚情報として取り込むことで、この商品がスポーツ飲料ではなく、栄養ドリンクでもなく、紛れも無くエナジードリンクなのだと瞬時に判断することができます。それゆえ、本案件の「らしさ」とは、読んで、分かって、判断するような時間経過を必要とするものではなく、瞬間的に視覚情報として判断されるものとなります。
伝達物質を炙りだすための採取調査から着手した、もうひとつの理由は、デザイナーが生活者と同じ視点に立ち、眺めている景色を手に入れるための目が必要だからです。既に市場に流通している複数のエナジードリンクのラベルやパッケージを採取することで、生活者が目にするエナジードリンク総体としての像を掴むことができます。その像こそが生活者が眺めているエナジードリンクの姿なのです。

そのような生活者の目が手に入った場合、ラベルデザインの制作工程で感性的な手と客観的な目を使ってデザインを駆動させることが可能となります。このようにデザイナーは、ラベルデザインの構成要素として伝達物質を用いて、己の感性を信じて直感的に手を使って造形し、生活者の視座という客観的な目によって、その造形表現の妥当性を判断することができます。

採取したデザインを分布

次に、採取したデザインを使って分布図を作成することで、エナジードリンクらしさの因子を炙りだすことに着手しました。そこで、横軸の指標には、ラベルに占める文字の情報量の大小。縦軸の指標には栄養補給の訴求度合いの強弱。それらの軸を直交したグラフを用意し、そのグラフの上に採取したラベルデザインを分布しました。
グラフの第1象限(情報量:少ない・栄養補給の訴求度合い:強い)が、もっともエナジードリンクらしさを感じることができる区域でした。その理由としては、日本のCMや小売店でよく目にする商品が多かったことが考えられます。広告出稿量が多い商品や販売促進が上手な商品は、生活者の目にする回数も多いので、エナジードリンクらしさを印象づけられていることなのかもしれません。
この区域に分布されたラベルやパッケージを読み解くと、伝達物質が同士の組み合わせに、一定のルールがあることに気づきます。本稿では、このルールを「伝達物質の構成規則」とします。したがって、エナジードリンクらしさを造形するためには、伝達物質を特定の組み合わせにしないと、伝達物質が効果的に生活者の目に取り込まれないと考えられます。ここでは、以下の2通りの伝達物質の構成規則を発見しました。
なぜ、デザイナーは複数のラベルやパッケージを読み解くことで、伝達物質の構成規則を見つけ出すことができるのでしょうか? それらを発見するということは、複数のラベルやパッケージに共通する視覚表現を考えるということです。この共通する視覚表現を考えるためには、対象を鋭くみる観察力が必要となります。この観察力こそがデザイナーの職能なのです。この観察力を鍛え上げたのは、学生時代のデッサンによるものだと考えられます。デッサンに裏打ちされた観察力をもつデザイナーだからこそ、伝達物質の構成規則を見つけ出せるのです。

ムードボードの作成

ムードボードとは、ある「テーマ」に沿って視覚表現されている画像を集め、1枚のスクラップ帳のようにまとめた画像群です。ムードボードのような視覚言語を使うことで、言語だけでは意味が伝わりづらいイメージをダイレクトに届けることを可能にします。上述した2通りの伝達物質の構成規則も、ムードボードとして視覚化することで、デザイナーの頭の中にあった曖昧な構想が目の前に顕在化、具体化し留まります。それゆえ、客観的な目を使って、そのムードボードの精度を判断でき、その伝達物質の構成規則の妥当性が分かるのです。
また、試作品の前段階でムードボードを依頼主と共有することで、試作品の作りの狙うべき方向の精度を向上させ、修正によるリスクを軽減させます。なぜならば、試作品を作り直す手間より、ムードボードを作り直すほうがコストを抑えられるからです。そのような無駄なコストを削減することで、依頼主が本当に注力すべき対象に、時間とお金を投資をすることが可能となります。今回は、上述した2通りの伝達物質の構成規則の妥当性を確かめるために、ムードボードを2点作成しました。
市場のデザインを採取し、採取したデザインを分布することで、エナジードリンクらしさの因子を捕捉することが可能となります。しかし、エナジードリンクらしさだけでは、エナジードリンクの商品群の中で埋没します。独自性を得るためには、ハイオクエナジーらしさの因子も捕捉する必要があるのです。そこで、商品名である「ハイオクエナジー」を発想の糸口に、商品名から浮かび上がるキーワードから、ハイオクエナジーらしさを紐解くことにしました。その結果、ハイオクという言葉から想起する「駆動力」、ハイオクという言葉から想起する「燃焼力」、エナジーという言葉から想起する「生命力」、エナジーという言葉から想起する「放電力」の4点のキーワードが連想されました。

試作品の制作

エナジードリンクらしさ、ハイオクエナジーらしさを捉えたら、上述した2点のムードボードと4点のキーワードを掛け合わせ、ラベルデザインの試作品の制作に入ります。まず、紙に手書きでラベルデザインのアイデアをスケッチします。その中から、ひとつ選び、グラフィックアプリケーションを使って、ラベルデザインの試作品を作ります。その試作品を制作過程や、作り終わった試作品を見ながら、違うラベルデザインのアイデアを発想します。そして、気になったラベルデザインのアイデアは、再び紙に手書きでスケッチして残します。そのスケッチを見ながら、次の発想や試作品づくりにつなげます。
このように、具体的に視覚化された試作品を見ながら、客観的な目を使ってその試作品の妥当性を判断します。そして、判断しながら、次のアイデアを発想して、頭の世界へ送り出します。送り出されたアイデアは手を使ってスケッチすることで、現実世界に引き戻されるのです。この作業を繰り返しおこないながら試作品を作りづづけていくのです。これがデザイナーが得意とする「手で考える」という方法です。

最終成果物

エナジードリンクらしさ、ハイオクエナジーらしさを捉えたら、上述した2点のムードボードと4点のキーワードを掛け合わせ、ラベルデザインの試作品の制作に入ります。まず、紙に手書きでラベルデザインのアイデアをスケッチします。その中から、ひとつ選び、グラフィックアプリケーションを使って、ラベルデザインの試作品を作ります。その試作品を制作過程や、作り終わった試作品を見ながら、違うラベルデザインのアイデアを発想します。そして、気になったラベルデザインのアイデアは、再び紙に手書きでスケッチして残します。そのスケッチを見ながら、次の発想や試作品づくりにつなげます。

おわりに

本稿では、ノンアルコールエナジードリンクのラベルデザインの制作工程を振り返りながら、その工程の秘めた意図について考察しました。エナジードリンクらしさの因子である伝達物質を捉えること。その伝達物質には構成規則があること。その規則を見つけるには観察力が必要であること。その観察力はデッサンによって訓練されてきたこと。そして、直感的に手を使って造形し、客観的な目によって、その造形表現の妥当性を判断するために、市場のデザインを採取しているということです。